mercredi 21 décembre 2005 11:13
悪夢の2日間~第一夜 モンマルトル→オペラ大通り32番地編~
catégorie: 12月のおパリ
モンマルトルの目的はもちろん、サクレ・クール寺院。「アメリ」の聖地だ。
すでに夕方近く、このへんは治安がよくないので、さっさと丘を登る。
いつもどおり黒人たちがわっと集まってきて、お土産物を売りつけようとする。
つうかいつも思うんだけど、誰が買うんだ、こんな物。こんなん騙されて買うの、うちのおかーさんくらいだぞ。
たいてい彼らの言うことは決まっていて、「アナタ、キレイデスネー、どっから来たの? ジャポン? コリア? シンヌ(中国)?」と聞いてくるので、とっさに「コリア!」と答えると、すかさず「アンニョンハセヨー」と返ってきた。
だって、奴らにほんとのこと言ったってしょうがないじゃーん。
厳かな院内で少し長椅子に座って、キリストの絵を眺めた。
さめっこさんはサクレ・クールをとても楽しんだようだった。院内も、丘の上からの景色も。
連れてくる人たちはだいたいみんな、サクレ・クールを気に入る。
だいちゃんに至っては「住みたい」とまで言わせたサクレ・クール。なのに近辺の治安がどうもよくないのが悲しい。
さっさとモンマルトルを後にしてホテルへ。ようやくチェックイン。
ここはいわゆる「オペラ座近くのプチホテル」ってやつで、昔オスカー・ワイルドが住んでたんだそうな。
ダブル・ミディアム・ルームでツイン・ベッドとバスタブのある部屋、と日本からお願いしていた甲斐があった。
なかなか小ぎれいで可愛い感じの部屋。わしの手際のよさの賜物ですな。
古いホテルなので、なんとビデがあった。

実物は初めて見た。どうやって使うものかは、各自お調べください。男子は知らんでもいいです。
さて、無事に引っ越しも終わって、さめっこさんの旅も残りあとわずか。
何事もなくてよかったよね、なんて言ってた矢先のことだった。
この旅最大(現時点で)のハプニングⅡが起こる。
やはり人間、油断は禁物なのだ…。
ホテルから数分のところにあるパン屋さん、PAULへ夜ご飯の買い出しに行くときのことだった。
オペラ大通り、あのオペラ座からのびる大きな大きな、ニッポンジンがうようよしている通り、そこをわたしが道路側になって歩いていた。
今日はすっかり無駄足をして疲れちゃったけど、軽くおいしいものでも食べて、明日のお買い物デーを楽しもう! とウキウキしながら歩いていたときのこと。
そのとき、忘れもしないオペラ大通り32番地、19時15分。
突然後ろから、ショルダーバッグをひょいと持ち上げられたのだ。
わたし、街を歩いてると、よく話しかけられたり、触られることが多い。
これまでにも黒人に腕を捉まれたり、髪の毛を引っ張られたりした(よく考えると、これも結構ひどいよね。慣れたけど)。
なので、そのときも冗談とか、またちょっかい出してきたな、くらいにしか思わなくて。さめっこさんも同じように思ってたみたいだ。
だから、引っ張られたバッグを自分のほうに引っ張り返したら、実はその男はフルフェイスのヘルメットをかぶってスクーターに乗っていて、男はバッグのショルダー部分を離さず、そのまま加速し、わたしはバッグ本体を捕まえたまま、あらら、あららという間に体勢を崩し、そのまま引きずられてしまったのだ。
今こうやって思い返すと、この引っ張られてる間のことをあまりよく覚えていない。
とにかくびっくりっていうのが先にあって、何がなんだかよくわからんかったけど、気づくと周りの人たちに「Au secours! Au secours!(助けてー助けてー!)」と叫んでいた。もちろん、語尾もちゃんと発音して。
あと、ひったくりだとはっきり理解してたわけではないんだけど、「絶対盗られてなるものか!」と思っていた。
あと、「何としても顔は傷つけない! 顔は商売道具なの(何の?)ーーー!」とも、思ってたねぇ。
さめっこさんも同じように、とにかくあんまりにもびっくりしすぎて、割と普通に後ろを歩いていたらしい。
ただ、心の中でわたしに向かって、「バッグ放してー!」と思っていたそうだが。
結局、男はあきらめてバッグを放し、わたしは倒れたまま道に置き去りになった。
最初にムッシューが近づいて起こしてくれて、バス停前だったので、みんな集まって心配してくれた。
さめっこさんもやっと走ってきて、「大丈夫!?」と声が出たようだった。
しかしわたしはとっさに、「さめ、大丈夫だった?」と聞き返し、さめっこさんに「あたしは大丈夫だけど…」と心配そうな顔をされた。
周りの人々が口々に何か言ってるけど、頭が混乱して何も聞き取れない。
バス停にいたきれいなお姉さんが、「バス停のイスに座ったほうがいいんじゃない?」と言ってくれたのも、理解するのにずいぶん時間がかかった。
なぜか心配して寄ってきた人たちに、これ以上迷惑をかけまいと日本人根性が出てしまって、「ありがとう、みなさんありがとう」と早口で言って、通りの開いているお店の脇に、さめっこさんと2人で寄りかかった。
そうなってやっと、大変なことが起こったんだってことがわかってきて、足がガクガク震え始めた。
通りがかりのムッシューに、「危ないんだから、バッグはしっかり抱えてなさい」と忠告される。
よく見ると、白いコートの右側半分が真っ黒に汚れている。
黒いブーツも、右足は石畳に摩られて真っ白になっていた。
右手は3本の指の節を擦りむいて、小指の根元が腫れている。
周りの人はわたしの服や手を見て、とても心配そうにしてくれた。
そしてほっぺを指差して、「これも?」と聞いてくる。
い、いやすみません、これは単なるヘルペスなんです…ポッ。
わたしたちが身を寄せた紳士服店のかっこいいお兄さんが、どうやら携帯で警察に電話しているようだった。
彼は一部始終を目撃していたようで、詳しく番地と時間、何色のバイクで何色のメットだったか、どっちの方角へ逃げて行ったか、などをメモしてくれていた。
「ヤツはアラブ人さ」と、お兄さんは言った。
そして、「顔、大丈夫?」と聞いてくれた。いや、だからこれはただのヘルペスなんです…。
お兄さんに、「お店の中のソファに座ってなさい」と言われる。
暖かい店内の革張りのソファで、やっと一呼吸。
オーナーらしいムッシューが日本語で声をかけてくれた(わしはよく知らんのですが、このお店は日本にも出店してるブランドみたいです)。
警察を待ってる間に、少しずつ冷静になってくる。
自分ではよくわからなかったけど、さめっこさんの話ではどうやらわたしは、2,30mは引きずられていたようだ。
ひったくられたのがさめっこさんじゃなくてよかった、と言うと、「あたしならすぐ放してたよ」と言われた。
それもそうすね…ていうか、その時のわしの所持金、カード類もあったけど、現金はたったの17ユーロ。
もっと金持ってそうなやつ狙ってよ…!
そして、警察はなかなかやって来ない…。
警察も救急車も、到着が遅いのがフランスという国。
さらに、この国では盗られたもんが返ってくることはない。それがわかってたから、わたしは必死に頑張ったんだけど。
おまけに、今さら警察が来たところで犯人が捕まるわけでもないし、もう帰りたいなーと思っていた。
そんな頃に、ようやく私服の男女2人の刑事が到着。
周囲の人やお店のお兄さんに話を聞いたあと、店内に入ってきて、わたしに立て続けに質問してきた。
「何盗られたの? パスポート? カード? 現金?」
彼が早口なのと、わたしの頭が混乱しているのとの相乗効果で、何が何だかわからない。
とにかく何も盗られてはいないので、「Rien! Rien!(英語で言うとnothingとかか?)」とだけ繰り返し言う。
そして、わたしの右手を見て、「ドクトゥール(医者)がいい? ポンピエ(消防士)がいい?」と聞いてくる(フランスでは救急車より消防車の方が早く、消防士はフランス人に愛されている)。
どっちでもいいけど手当てしたい、的なことを言うと、刑事さんは「オーケイ、顔大丈夫?」と聞いてきた。
もうほんと、まぎらわしくてすんません。ヘルペスです…。
そして、わたしたちは紳士服店のお兄さんとオーナーさんに多大な感謝を示しつつ、車(覆面パトか?)に乗って警察署へ向かった。
ここから、長い長い夜が始まった…。
つづく
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